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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)1098号 判決

判   決

東京都中央区日本橋通一丁目一番地

原告

野村証券株式会社

右代表者代表取締役

奥村綱雄

右訴訟代理人弁護士

大橋光雄

栗田吉雄

東京都千代田区丸ノ内一丁目一番地

被告

特殊製鋼株式会社

右代表者代表取締役

石原米太郎

右訴訟代理人弁護士

秋山哲一

竹内三郎

田中常治

東京都中央区京橋三丁目二番地四

被告

日本製粉株式会社

右代表者代表取締役

赤木栄

右訴訟代理人弁護士

池田光四郎

静岡県伊東市松原三丁目四番地

被告

山田勇

右訴訟代理人弁護士

小川清俊

右当事者間の昭和三三年(ワ)第一、〇九八号株主権確認等請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告と被告特殊製鋼株式会社との間において、原告が別紙目録一の株式の株主であることを確認する。被告特殊製鋼株式会社は原告に対し右株式について新たに株券を発行せよ。

原告と被告日本製粉株式会社との間において原告が別紙目録二の(一)及び(三)の株式の株主であることを確認する。

被告日本製粉株式会社は原告に対し右別紙目録二の(一)の株式について新たに株券を発行せよ。

原告と被告山田勇との間において原告が目録一ならびに二の(一)及び(三)の株式の株主であることを確認する。

原告のその余の請求はこれを棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は

「原告と被告特殊製鋼株式会社との間において、原告が別紙目録一の株式の株主であることを確認する。

被告特殊製鋼株式会社は原告に対し、右株式について新たに株券を発行せよ。

原告と被告日本製粉株式会社との間において、原告が別紙目録二の(一)及び(三)の株式の株主であることを確認する。

被告日本製粉株式会社は原告に対し、右株式について新たに株券を発行せよ。

原告と被告山田勇との間において原告が別紙目録一ならびに二の(一)及び(三)の株式の株主であることを確認する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一、原告は昭和二八年一一月初旬訴外横山政雄から、

(一)  被告特殊製鋼株式会社株式三〇〇株―株主名義人中村寅次郎(別紙目録一)

(二)  被告日本製粉株式会社株式三〇〇株―株主名義人中川健雄(別紙目録二の(一)及び(二))

をそれぞれその名義人の裏書又は譲渡証書とともにする交付によつて取得した。

二、(一) 原告は右特殊製鋼株式会社株式三〇〇株を訴外山二証券株式会社に譲渡した。

(二) 右訴外会社は右株式三〇〇株のうち別紙目録一の(一)二〇〇株を訴外赤木屋証券株式会社に譲渡し、同訴外会社は更にこれを訴外鈴木清三に譲渡した。同人は昭和二九年一月一一日右株式について自己名義に株主名簿を書き換えた。

(三) 前記山二証券株式会社は前記特殊製鋼株式会社株式三〇〇株のうち残り一〇〇株すなわち別紙目録一の(二)の株式を訴外勧業証券株式会社に譲渡し、同訴外会社は更にこれを訴外日興証券株式会社に、同訴外会社はこれを訴外垣内正治に譲渡した。同人は昭和二九年三月五日右株式について自己名義に株主名簿を書き換えた。

三、(一) 原告は前記日本製粉株式会社株式三〇〇株を訴外山一証券株式会社に譲渡した。

(二) 右訴外会社は昭和二九年三月一七日右株式三〇〇株のうち別紙目録二の(一)二〇〇株について自己名義に株主名簿を書き換えた。

(三) 前記山一証券株式会社は前記日本製粉株式会社株式三〇〇株のうち残り一〇〇株すなわち別紙目録二の(二)の株式を訴外三菱信託銀行株式会社に譲渡し、同会社はこの株式について自己名義に株主名簿を書き換えた。同会社は昭和二九年五月二八日右別紙目録二の(二)の株券の併合による代り株券として別紙目録二の(三)の株券の発行を受けた。

四、被告山田勇は別紙一ならびに二の(一)及び(二)の株式について株券(右一の株券は中村寅次郎を、右二の(一)及び(二)の株券は中川健雄を最終名義人として)を喪失したことを理由として昭和二八年一二月一日熱海簡易裁判所に公示催告の申立をし、公示催告期間を翌年七月五日までとする公示催告の決定を得、その後右申立事件は東京簡易裁判所に移送され、同裁判所において同年七月八日右株券の無効を宣言する除権判決(昭和二九年(ヘ)第二四五号)が言渡された。

五、(一) 別紙目録一の(一)の株式は前記訴外鈴木清三より他に譲渡され、

(二) 別紙目録一の(二)の株式は前記訴外垣内正治より他に譲渡されそれぞれの譲渡人は発行会社である被告特殊製鋼株式会社に名義書換を請求したが、同被告は前記除権判決があることを理由としてこれを拒絶した。

六、(一) 別紙目録二の(一)の株券は前記訴外山一証券株式会社より他に譲渡され、

(二) 別紙目録二の(三)の株券は前記三菱信託銀行株式会社より他に譲渡され、

それぞれの譲受人は、発行会社である被告日本製粉株式会社に名義書換を請求したが同被告会社は前記除権判決があることを理由としてこれを拒絶した。

七、別紙目録一ならびに二の(一)及び(三)の株式は以上のとおり発行会社より除権判決があつたことを理由として名義書換を拒絶された結果、事故株券として無事故株券と引換に譲受人より譲渡人に順次返戻され、原告に戻つたものである。

八、右のように本件株式が原告に戻つた事由は次のとおりである。

(一)  東京証券取引所会員の間に「会員が受渡により引渡を受けた記名式の株券につき名義書換不能その他の事故があることを発見したときは、その受領の日から起算し一年を限りその事故の除去又は他の株券との引換を請求することが出来る」との商慣習がある。この商慣習は商法第三条の類推によつて会員たる証券業者と顧客たる委託者との間にも適用がある。

(二)  原告、訴外山二証券株式会社、同赤木屋証券株式会社、同勧業証券株式会社、同日興証券株式会社及び同山一証券株式会社はいずれも東京証券取引所の会員である証券業者である。従つて本件株券の最終名義人である訴外鈴木清三、同垣内正治、同山一証券株式会社及び同三菱信託銀行株式会社よりそれぞれ本件株券が順次返戻されたことは右商慣習にもとずくものである。

右最終名義人がそれぞれの譲受人より返戻を受けたのも右商慣習にもとずくものである。すなわち、右最終名義人の譲渡はいずれも会員である証券業者に委託してなされたのであるから、会員と右譲受人との売買となり既に述べたとおり会員と客である委託者には右商慣習が適用されるからである。

九、原告は以上のとおり、商慣習にもとずき無事故株券と引換に本件株券の返還を受けたのであるから、一に述べた訴外横山政雄よりこれを譲り受けた状態に復帰し、本件株券の株主である。この株主の地位は前記除権判決により影響されるものではない。しかし被告特殊製鋼株式会社は別紙目録一の株式について除権判決を理由に名義書換を拒絶し、被告日本製粉株式会社は別紙目録二の株式について右同様の理由により名義書換を拒絶し、被告山田勇は除権判決を求め株主権を主張しているので、被告両会社には株主権の確認と株券の発行を求めるため、被告山田に対しては株主権の確認を求めるため本訴に及んだ。」

(立証省略)

被告特殊製鋼株式会社訴訟代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として請求原因事実一、二、四、五及び七を認めると述べた。

被告日本製粉株式会社訴訟代理人は原告の請求を棄却する旨の判決を求め、答弁として請求原因事実一は不知、同三、四、六及び七は認めると述べ(中略)た。

被告山田勇は適式の呼出を受けながら最初になすべき口頭弁論の期日に出頭しないから、その答弁書に記載した事項を陳述したものと看做した。この答弁書の記載事項の趣意は次のとおりである。

一、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

二、答弁として請求原因事実四を認め、その余の事実は不知である。

理由

一、被告山田勇の申立に基き、別紙目録一の株券については最終名義人を中村寅次郎とし、また同目録二の(一)および(二)の株券については最終名義人を中川健雄とし、昭和二九年七月八日東京簡易裁判所においていずれもその株券を無効とする旨の除権判決(昭和二九年(ヘ)第二四五号)が言渡されたことは、当事者間に争がない。

二、しかし、除権判決はたんに判決以後株券を無効とし、公示催告申立人に株券を所持すると同一の地位を回復させるに止まり、申立の時に遡つてその株券を無効としあるいは申立人が実質上の株主であることを確定するものではない(最高裁昭和二九年二月一九日判決民集八巻五二三頁)から、前示の株券についてもその除権判決のあるにかかわらず、なお、その実質上の株主が何人であるかは、これと別個に考察されなければならない問題である。

ところで、右の株式は各その最終名義人からさらに転々譲渡され、その除権判決前少くとも次のように移転している。(一)まず、原告が訴外横山政雄から昭和二八年一一月初旬それぞれの最終名義人の白地裏書または白地譲渡証書の添付ある株券の交付を受けて譲り受けたことは、原告と被告特殊製鋼株式会社との間に争がなく、原告とその余の被告との間では(証拠―省略)によつてこれを認めることができる(別紙目録二の(二)の株式が裏書または譲渡証書の交付のいずれによつたかは明らかではないが、右の証言によつて明らかなようにその譲渡が証券取引所を経由してなされたことおよび後記認定のように発行会社が株式併合による代り株券として同目録二の(三)すなわち甲第二号証の(三)の株券を原告に交付していることにより、そのいずれかによつたものと認める)。

(三)次に右の各証拠によれば、

(1)  別紙目録一の株式はその後原告から山二証券株式会社に譲渡され

(イ)内二〇〇株(同目録一の(一))はさらに順次赤木屋証券株式会社、鈴木清三に譲渡され、昭和二九年一月一一日同人名義に名義が書換えられ

(ロ)  内一〇〇株(同目録一の(二))はさらに順次勧栄証券株式会社、日興証券株式会社、垣内正治に譲渡され、昭和二九年三月五日同人名義に名義が書換えられた((1)の事実は被告特殊製鋼株式会社の認めるところである)。

(2)  同目録二の株式はその後原告から山一証券株式会社に譲渡され

(イ)  内二〇〇株(同目録二の(一))は昭和二九年三月一七日同会社名義に名義が書換えられ

(ロ)  内一〇〇株(同目録二の(二))はさらに株式会社三菱信託銀行に譲渡されてその名義書換がされたが、昭和二九年五月二八日株式併合によりその株券五〇株券二枚の代り株券として一〇〇株券一枚(同目録二の(三))が交付された((2)の事実は被告日本製粉株式会社の認めるところである)。

以上の事実が認められる。

訴外横山政雄が別紙目録一および二・(一)、(二)の株式を取得した経緯は明らかでなく、同人が果して真実の株主であつたかどうかを確める術はないが、それはともかく、被告が右の株式を取得するにつき悪意または重大な過失があつたことの主張、立証のない本件においては、原告は適法有効にこれを取得したものと認めざるをえず、したがつて、原告から順次譲り受けた前示の各株式譲受人はいずれも有効にこれを取得したものといわなければならないものである。

三、<証拠―省略>によれば、別紙目録一および二の(一)、(三)の株式はその後各最終名義人よりさらに他に譲渡され(ただし、二の(三)の株式の場合は二の(二)の株式の最終名義人である)、その譲受人はそれぞれの株券発行会社に対して名義書換を請求したが、いずれも前示除権判決のあつたことを理由としてこれを拒絶されたので、その株券をいわゆる事故株として無事故の株券と引換に譲渡人に返戻し、その譲渡人はさらにその前者に対し同様の方法によつて各自の譲受株券を返戻した結果、結局右の株券は全部原告の手裡に帰するにいたつた事実を認めるに十分である(一の株券に関する部分は被告特殊製鋼株式会社との間において、二の(二)、(三)の株券に関する部分は被告日本製粉株式会社との間において争がない)。

ところで、除権判決後無効に帰した旧株券による株式の譲渡がその効力を生じないことは当然であるけれども、その判決前における旧株券による譲渡がその後の除権判決によりその効力を覆滅さるべきいわれのないこともきわめて明らかである。それ故に、すでに説示したように、原告が別紙目録一および二の(一)、(二)の株式を有効に取得したものである以上、その後除権判決までになされたそれぞれの譲渡はすべて有効であつて、譲受人の取得した株券をもつて法律的にかしを包蔵する意味における事故株となすをえない。しかし、株式の譲受人が名義書換手続未了の間に当該株券につき除権判決がなされたため、発行会社においてその名義書換を拒絶するような場合においては、理論上は譲受人が公示催告の申立人として自己が株主であることの確認を求めるとともに発行会社に対し株券の再交付を求むべきであろうが、譲受人にかかる煩頃な手続をとらせることは株式取引の円滑をはかる証券会社として必ずしも適切な措置といいがたく、このために証券業協会においては統一慣習規則を設けて名義書換不能のいわゆる事故株につき一年間に限つて他の株券との引換を認めている(成立を認むべき甲第五号証)。この規則はもとより協会員間の株式取引につき適用されるものであるが、証人斉田正太郎の証言(第二回)によれば証券業者は通常顧客との間の取引についても同様の措置を講じており、本件において、前認定のように別紙目録一および二の(一)、(三)の株券が原告の手裡に帰したのもかかる措置によつたものであることが窺われる。

右のように、除権判決により事実上名義書換が不能となつたいわゆる事故株を譲受人から譲渡人に返戻する行為の性質をいかに理解すべきかは疑がないではないが、法律上はこれを当該株式譲渡の合意解除(並びに代り株式の新たな譲渡が随伴することは当然である)と認むべきであろうと思う。あるいは、株式売買における不完全履行に準じ履行の追完をする趣旨とも認められないことがないかも知れないが、厳格な意味ではその履行に法律上のかしを伴つていないから、このように解することにいささか躊躇を感ずる。しかし、そのいずれにせよ、このように、一たん譲渡した株式を受け戻す場合は、それはたんに譲渡前の原状に復するだけであつて、その間に新たな利益交換を生ずるものでないから、その譲渡と受戻との間に当該株券につき除権判決があつても、その効力は受戻の場合に及ばず、譲渡人が譲渡当時実質上の株主である限りその受戻によりその株主たる地位を保有するものと解するを妥当と考える。そして、このように解するときは、原告は別紙目録一および二の(一)、(三)の株式を受け戻すことによつてその株主たる地位を回復したものといわなければならない(二の(三)の株券は二の(二)の株券の併合による代り株券で前記除権判決により無効とならないことは後述のとおりであるから二の(二)の株式の受戻は二の(三)の株券の受戻によつてなされるものと認むべきである)。

四、被告らはそれぞれ原告がその主張のような株主であることを争つているから、原告が、被告特殊製鋼株式会社に対し別紙目録一の株主であること、被告日本製粉株式会社に対し同目録二の(一)および(三)の株主であること、被告山田勇に対し同目録一および二の(一)、(三)の株主であることの確認を求める請求は理由があり、また、右一および二の(一)の株券が除権判決により無効とされたにかかわらず、発行会社たる両被告会社はそれぞれその対応する株券を原告に再発行した事跡がないから、両被告会社に対しそれぞれその対応する株券を原告に再発行すべき旨の請求も正当であつて、これを認容すべきものである。しかし、別紙目録二の(三)の株券は同目録二の(二)の各株券の株式併合による代り株券であつて、株券としてはその同一性を有するものではないから、右二の(二)の株券につきなされた除権判決の効力は右二のの株券に及ばず、その株券は依然としてその効力を有するから、右二の(二)の株券につき除権判決があることを理由として被告日本製粉株式会社に対し右二の(三)の株券の再発行を求める原告の請求は理由がなく棄却を免れない(株券の毀損を理由として株券の再発行を求めうるかは別問題である)。

五、以上により、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九二条第九三条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部茂吉

裁判官 上 野   宏

裁判官中里辰二は転任につき署名捺印できない。

目録(省略)

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